平成16年10月4日
A認知運動療法による治療とは(その1)

 
 
 「認知運動療法」は、「運動療法の目的は運動の認知過程への適切な介入である」という理念に基づいて開発されており、机上の学習と同じように、認知の過程《知覚・注意・記憶・判断・言語(運動)》に沿って学習することで、機能回復を図っていきます。

 私たちは、生まれてからいきなり何でも出来るわけではありません。人は成長する中で、身体がいろんな環境で様々な経験をして学習することによって、多種多様なことが出来るようになるわけです。このことは、脳の学習(認知過程に沿って学習すること)による発達と捉えることが出来ます。

 ですから、私たちが、日頃何気なく行っている日常の動作は、認知過程《知覚・注意・記憶・判断・言語(運動)》に沿って学習して習得されたものといえます。
例えば、すごくワックスの効いた床があったとします。(ワックスに気づかなかったとします。)歩いていてその床に足が接地したその一瞬の間に、足の裏が滑ることを感じ「知覚」、滑ったことに「注意」が向き、過去の「記憶」から、この感じはワックスで滑ること思い出します。そして、滑らないように慎重に歩いたほうが良いと「判断」して、瞬時に滑らないような歩き方(適切な筋収縮)「運動(言語)」をするわけです。

 しかし、もし何らかの原因で足の裏で床の状態を適切に感じること「知覚」が出来なかったらどうでしょう。きっと転んでしまうと思います。たとえ「知覚」に問題が無くても、注意障害があったとしたら(ボーッとしている時もそうですが・・・)これも転んでしまうと思います。「知覚」にも「注意」にも問題なくても、滑った経験や「記憶」が無かったら転ぶかもしれませんし、滑った経験の「記憶」があっても、転ばないようにしようという「判断」が出来なかったら、転んでしまうかもしれません。また最終的に、転ばないような歩き方にすることを「判断」出来たとしても、その歩き方(適切な筋収縮)「運動(言語)」が出来なければ転ぶかもしれません。このように、認知過程のどこかに問題があると、動作や行為に支障が出てしまいます。

 認知運動療法では、このようにどの認知過程《知覚・注意・記憶・判断・言語(運動)》に問題があるのかを評価して、問題と思われる認知過程を活性化(学習)することによって機能回復を図っていきます。
実際の治療アプローチでは、療法士が患者さんの障害の状態に応じて「認知課題」を作成し、患者さんがそれに答えるという形が基本となります。(この課題は、易し過ぎても難しすぎてもいけません。)
そして、この治療アプローチを実施するにあたっては、〔閉眼での訓練〕・〔注意の集中〕・〔物体(道具)との関わり〕・〔筋収縮を強要しない〕という4つの規範があります。

  なぜ〔閉眼での訓練〕かというと、片麻痺の患者さんの場合は体性感覚(触覚・圧覚・位置覚・運動覚など)に問題があるわけで、視覚には一般的には問題が無いわけです。そういう患者さんに対して、視覚に重きをおいたような訓練をすると、体性感覚情報が抑制されてしまい、運動機能回復を導くことが難しくなる背景があります。また、感覚(視覚・聴覚・体性感覚など)の約80%は視覚が占めていることから、閉眼して視覚を遮断することによって、約20%の体性感覚にすべての神経を集中する(感覚を研ぎ澄まして、より感じやすくする)ことが出来ます。このことは、〔注意の集中〕にもつながりますが、〔注意の集中〕で重要なのは、注意を呼びかけた場合に活性化する大脳皮質の領域が存在するということです。これは、サルの実験などでも明らかになっており、指に注意を喚起しながら触らせた課題の場合には、指に対応する感覚野の領域が広くなるのに対して、ただ漫然と触らせた課題の場合には、感覚野の領域の広さに変化は見られません。つまり、ただ漫然とやるオートマチックな訓練(ただ繰り返すだけの運動)では、大脳皮質は活性化しない(機能回復しない)のです。
 
       
   
 
 
 
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