平成16年10月4日
A認知運動療法による治療とは(その2)

 
 
 次に〔物体(道具)との関わり〕については、環境からの情報を収集する際に基本的に重要となってきます。(ここで言う環境とは現実の環境のことで、上肢の場合には、手を伸ばしてそれをつかんで操作する物体かもしれませんし、下肢の場合には歩行時に負荷した体重を反力として反してくる床面かもしれません。)しかし、現実の環境状況は認知過程に障害をもつ患者さんにとって、それを知覚する段階で非常に複雑すぎるのです。そこで、認知運動療法ではそれぞれが現実の一面を単純な形で表した「道具」を使用することで、病態に応じた環境を設定して訓練を行います。

 最後に、〔筋収縮を強要しない〕ということには、「代償的な運動の組織化を防ぐ」(筋収縮を強要すると、代償運動を引き起こして間違った学習をしてしまいます。)、「機能解離からの自然回復を促す」(筋収縮を早期から強要すると、損傷部位以外の関係領域まで回復しにくくなります。)という大きな理由があります。これはどちらも、脳の生物学的なメカニズムに配慮して決められた規範です。
認知運動療法では、この4つの規範に従って、訓練を3段階に段階づけて行います。
第1段階:患者さんによる自動運動は禁じ、療法士による他動運動のみで行う。

第2段階:療法士による他動運動を中心に、場合によって患者さんの自動運動を許可する。
第3段階:患者さんの自動運動のみで行う。(第3段階だけは開眼して、身体イメージと実際の身体との情報をマッチングさせる訓練をします。)

 また、訓練の段階付けとともに、認知過程の情報の細分化を図る目的で、「身体部位の選択(上肢・下肢・体幹、全体的・分節的)」「感覚様式の選択(視覚・体性感覚)」「認知課題の選択(空間課題・接触課題)」の3つの事柄が明示されており、これらをもとに具体的な訓練を組み立てていきます。
 例えば、脳梗塞による左不全片麻の痺患者さんで、床面からの情報を収集する認知過程に問題がある場合の「認知課題」の1例です。
 
 
 
 
 身体部位は下肢の足関節(分節的)で、感覚様式は体性感覚の圧覚、課題は接触課題を選択します。
 ここでは、患者さんの能力に応じて複数のスポンジを用意して、訓練段階によって他動または自動にて踵を下げてその硬さを当ててもらいます。ここで重要なのは、認知課題の形式をとることで、認知過程の基本単位がすべて動員されるということです。患者さんは、踵に提示されたスポンジの硬さを閉眼にて意識を集中(注意)して感じ取り(知覚)、複数のスポンジの硬さを思い出しながら(記憶)、踵に提示されているスポンジの硬さはどれであるかを識別(判断)して、言葉に出して答えなければ(言語)なりません。

 ちょっと難しい話になってしまいましたが、次からは実際にひろあきさんに行った治療についてお話します。

 
       
   
 
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